ナディー。ヴァーユ。カパラバティ。
ヨガの呼吸法(プラーナヤーマ)には、いろんな名前と技法がありますよね。
でも、知識として覚えても、ふとこう思ったことはありませんか?
「結局これって、なんのためにやるものなんだろう?」
今回は、そんな“呼吸法をやる意味”について、少しだけ掘り下げてみたいと思います。
目次
呼吸は、心とつながっている
イライラしているとき、呼吸はどうなっていますか?
不安なとき、息はどこにありますか?
多くの人が、「呼吸が浅くなる」「早くなる」と答えるはずです。
つまり、呼吸は感情と直結しているんですね。
逆に言えば、呼吸を変えることで、心の状態も少しずつ変えられるということ。
プラーナヤーマとは、その“心の扱い方”を身につけるための、呼吸を使ったトレーニングだと私は思っています。
プラーナヤーマは「自分の内側を扱う練習」
ヨガの聖典である『ヨガ・スートラ』では、プラーナヤーマは「アーサナ(ポーズ)の後に行うべき」とされています。
それはなぜか?
体を整えたあとに、呼吸という“より繊細な内側”に意識を向けられるようになるからです。
呼吸は、自律神経とつながっていて、意識的にも無意識的にもコントロールできる不思議な存在。
そこに意識を向けることで、普段は見逃している「緊張」や「焦り」などに気づけるようになります。
気づければ、少し距離を取ることもできる。
それが、ヨガの哲学的な意味での「自由」につながっていきます。
ナディーを浄化し、生命エネルギーを調える技法
プラーナヤーマは、ただの“深呼吸”ではありません。
「プラーナ=生命エネルギー」、「アーヤーマ=制御・拡張」。
つまり、プラーナヤーマとは、生命エネルギーを調整し、広げるための技術です。
ヨガ哲学では、私たちの体には「ナディー」と呼ばれるエネルギーの通り道が存在し、その中をプラーナが流れていると考えられています。
このナディーが詰まり、プラーナの流れが滞ると、心身の不調やネガティブな感情が生まれるとされます。
プラーナヤーマは、このナディーを浄化し、プラーナの流れを整えることで、肉体・精神・意識のバランスを保つ働きをするのです。
特に、呼吸法のひとつである「ナディ・ショーダナ(片鼻呼吸法)」は、左鼻(イダー)と右鼻(ピンガラ)という2つの主要なナディーのバランスを整えるための呼吸法です。
イダーは“月のエネルギー”を象徴し、リラックスや直感に関係すると言われています。
一方、ピンガラは“太陽のエネルギー”を象徴し、活力や論理的思考に関係します。
この2つのバランスが整うことで、心身の調和や集中力の向上が期待できるのです。
プラーナヤーマで得られる、日常へのヒント
ここでは、特定の技法ではなく、「呼吸の力」がどう心に効くのかをシンプルに見ていきましょう。
ヨガでは、鼻呼吸が基本です。
鼻から吸ったエネルギーを全身に届けるように深くゆっくりと行うことがコツ。
ひとつの呼吸を行う中でも、3つの段階に分けて考えることができます。
① 吸う(プラク) ② 止める(クンバク) ③ 吐く(レチャク)
このひとつひとつに意識を向けながら、実際にやってみてくださいね。
1. ゆっくり吐くだけで、落ち着いてくる
交感神経が優位になっているとき(怒りや不安、焦りなど)、ゆっくりと長く吐く呼吸は副交感神経を優位にします。
「4秒吸って、8秒吐く」などの簡単な練習でも、気持ちが落ち着いてくるのを感じるでしょう。
2. 一瞬止めてみることで、思考が整理される
クンバク(止息)は、「息を止める」ことで“今この瞬間”にグッと意識を向けるテクニック。
イライラが爆発しそうなとき、「吸って、ちょっと止める」だけでも冷静さが戻ってくることがあります。
3. 胸やお腹に意識を向けると、感情に気づける
吸う息に合わせて胸を広げてみる。
その感覚に集中するだけで、「あ、今ちょっと寂しいのかもしれない」「緊張してるな」など、
今まで見逃していた“自分の状態”が見えてくることがあります。
プラーナヤーマは「感情のリハビリ」かもしれない
私たちは、忙しい日常の中で感情に振り回されがちです。
「落ち着きたい」と思っても、思うだけでは落ち着けない。
でも、“落ち着く呼吸”を真似することはできるんです。
だからこそ、呼吸法は感情のトレーニング。ある意味「心のリハビリ」でしょう。
深くゆっくり呼吸するだけで、心が少し落ち着く。
止めることで、考えすぎから抜け出せる。
気づくだけで、「今ここ」に戻ってこられる。
それだけでもう、立派なヨガの実践です。
呼吸と意識、スピリチュアルな観点から
古代のヨギたちは、「呼吸を制する者は、心を制す。心を制する者は、世界を制す」と教えていました。
呼吸は、目に見えない「プラーナ」という生命エネルギーの運搬手段であり、私たちの「意識」や「霊性(スピリチュアルな成長)」と深く結びついています。
瞑想を深めたい人、集中力を高めたい人、意識を拡張したい人にとって、
プラーナヤーマはただの準備運動ではなく、「気づきの扉」を開く鍵でもあります。
ゆっくりとした呼吸に身を委ねていくと、思考のノイズが減り、感覚が研ぎ澄まされていきます。
その先に、静けさの中にひらく“意識の中心”があると、ヨガ哲学は語っています。
ヨガの哲学やアーユルヴェーダでは、プラーナは5つに分けられると考えられています。
それぞれヴァーユ(ヴァユ)と呼ばれ、この5つにはそれぞれ司る役割や場所があります。
詳細はこちらの記事で解説しています。
まとめ:呼吸の種類よりも、まず“気づき”から
カパラバティやナーディショーダナなど、呼吸法も大事です。
でも、それよりもまず、「今の自分の呼吸」に気づくことが何よりのスタート。
プラーナヤーマは、特別な修行ではありません。
“心を整えるリモコン”として、今日の生活の中でもきっと役立ってくれます。
ゆっくり吸って、長く吐く。たったそれだけでも、心は少し自由になるかもしれません。
今日、どんな呼吸をしていますか?
それに気づけたら、きっともうヨガは始まっているのです。
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