「自分らしく生きよう」――そんな言葉がSNSでも現実でも、よく聞かれる時代ですね。
多様性、多様性と言われていますが、実際 “自分らしさ”って何でしょう?
そして、ヨガの世界では「自我を手放す」「エゴを手放す」とも言われます。
…あれ?矛盾していませんか?
今回はそんなモヤモヤを、ヨガ哲学の視点からゆるく掘っていこうと思います。
目次
そもそも「自分らしさ」って何?
「自分らしく」というのは便利な言葉ですね。
自分の好きなこと、得意なこと、価値観を大事にする。
好きな服を着て、好きな働き方を選んで、自分らしく生きる――それが今っぽくて正解のようにも感じます。
でも、それって本当の「自分」なのでしょうか?
ヨガ哲学では、心や性格や思考、身体を「本当の自分」だとは見なしていません。
そうしたものはすべて変わり、外的要因の影響を受けるからです。
「自分らしさ」だと思っているものも、実は社会や家族、過去の経験によってつくられた“キャラクター”かもしれません。
このキャラクターが「アハンカーラ(自我)」と呼ばれるものです。
インドのヨガ哲学では、アハンカーラに振り回されると、人は苦しみを抱えると言われています。
ヨガの目的は「本当の自分」に気づくこと
ヨガの聖典『ヨガ・スートラ』では、ヨガの目的は「心の働きを止めること(チッタ・ヴリッティ・ニローダハ)」とされています。
心=思考・感情・記憶・想像といった“ざわざわ”を静かにしていくと、その奥にある“変わらない自分”に触れられるのです。
この「変わらない自分」=「本質的な自己(プルシャ)」こそが、ヨガが目指す “自分”であり、
そこには性格や肩書き、好き嫌いといった「自分らしさ」は含まれていません。
つまり、ヨガの世界では「自分らしさ」はゴールではなく、むしろ超えていくものとされることもあるのです。
それでも「自分らしさ」は大事?
では、「自分らしく生きる」って、間違っているのでしょうか?
そう思うかもしれません。でも、そんなことはありません。
ヨガの実践では、最初から「エゴを手放せ」とか「自我を捨てろ」と言われるわけではありません。
アーサナ(ポーズ)や呼吸を通して、まずは「今の自分」に気づくところから始まります。
「自分ってこういう性格だな」「こんな時にイラッとするんだな」「こういう時に気持ちがラクになるんだな」――そういった観察が、自分との関係を深めていきます。
その過程で、自然と「手放してもいい部分」が見えてきたり、「もっと大事にしたい自分」が見えてきたりするのです。
ヨガ哲学的な視点で言えば、「自分らしさ」は、“今この時点”の自分を理解するための入り口。
最終的にはその“枠”を超えていくとしても、最初から否定する必要はまったくありません。
“私らしさ”を縛りにしないために
現代は、「自分らしさ」が呪いにもなり得る時代です。
「こうあるべき」「私はこういう人間だから」と決めつけることで、自分を狭めてしまうこともあります。
ヨガ哲学では、すべては変化していく(サンスカーラ=潜在的印象)とされています。
「こういう自分」という思い込みも変えていいし、手放していいのです。
むしろ、ヨガの実践は「私はこれでいい」と固めることではなく、「私は今どう感じている?」「本当にそうしたい?」と問いかけ続けること。
変わっていくことを恐れず、しなやかに“今の私”を生きること。
それが結果的に、誰よりも“自分らしい”生き方につながるのではないでしょうか。
「自分らしさ」に疲れたとき、ヨガはどう使える?
「自分らしくいたい」と頑張りすぎて、逆にしんどくなることってありますよね。
そんなときこそ、ヨガの“ただそこに在る”感覚が助けになります。
「今日は呼吸が浅いな」と気づくだけでもOKです。
ポーズができなくても「今の体はこんな感じなんだなぁ」と感じるだけで十分。
「何もしたくない日」があっても大丈夫。
“頑張らない”ことを許してくれるのが、ヨガの懐の深さなのです。
疲れた時のよりどころとして、ヨガをそっと取り入れてみるのも一つの道かもしれません。
ヨガ哲学を日常に活かす、ちょっとしたヒント
難しそうに見えるヨガ哲学も、日常に置き換えると意外とシンプルです。
- 「今、私は反応している?それとも気づいている?」と自分に問いかけてみる
- なにかを判断せずに、1分間、ただ自分の呼吸を感じてみる
- 「自分はこうあるべき」をいったん横に置いてみる
こうした小さな行動が、日々の暮らしを少しだけ楽にしてくれることもあります。
ヨガはマットの上だけでなく、生活の中にも生きているのです。
まとめ:ヨガは「自分らしさ」を見つめ直す哲学
ヨガは、「自分らしさを否定する」哲学ではありません。
むしろ、「“自分らしさ”って何?」を、静かに見つめ直す哲学です。
元インストラクターとして、私もかつては「自分らしくいたい!」と強く思っていました。
でも、ヨガを学び、「あ、手放しても大丈夫なんだ」「変わっても平気なんだ」と知ったことで、とてもラクになったのです。
自分らしさにこだわる必要はありません。
でも、自分らしさを入り口に、もっと自由な“私”に出会っていく。
それがヨガの深さであり、やさしさなのではないでしょうか。
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